東京・杉並区にあるスギ薬局。業界6位のドラッグストアチェーンのこの店舗で、調剤ミスによる死亡事故が起きたのは、2021年10月だったという。

 当時74歳の女性が同店に持病の処方箋を出したところ、誤って処方にない糖尿病患者の薬を処方されたそうだ。服用した女性は、低血糖脳症になり、1ヵ月後に意識不明になって、翌年5月に亡くなったというのである。

 今年8月、遺族がスギ薬局と薬剤師に損害賠償を求め、提訴する事態となったそうだ。
だが、別の大手調剤薬品チェーンで勤務する管理薬剤師、伊藤(40代・仮名)はこういう。

「私たちも調剤ミスには気をつけていますが、小さな過誤は日常茶飯事です。忙しいときには、気づかずにそのまま出してしまうことも二度三度ではありません。こうした薬局でのミスが、表面化するケースはごくわずかです」

 関東に数店舗を展開する中規模薬局に在籍するベテラン薬剤師である田中(50代・仮名)も、顔面が蒼白になるほどの忘れられない経験があるという。

「わりと最近のことです。小児の咳止めアスベリンシロップが『0.5%』で処方されていたのに、『2%』で調剤してしまいました。過量服用すると、眠気やめまい、意識障害や精神錯乱を引き起こす重大な事態となります。業務後に薬歴を書いているときに気づき、慌てて患者さんの保護者に連絡しましたが、既に飲まれていました。幸い、健康被害はなく、患者さんには正しく調剤し直した薬を届け、謝罪で終わりました。ほんと、ヒヤリとしましたね」

2017年には、京都大学病院が調剤した注射薬によって、60代女性患者が死亡。必須ミネラルであるセレンの濃度が約1千倍となる調剤ミスで、計測器のグラムとミリグラムの単位を間違えたことが原因だったという。

 調剤薬局の現場では、似た名前の薬を間違えて処方することはしょっちゅう起きているそうだ。例えば、高血圧治療薬のアイミクス配合錠など、HD(高容量)とLD低用量)の2種類ある薬を間違えて調剤してしまうケースや、含まれる成分量は異なる5mgと10mgを取り違えることは“薬剤師あるある”だという。