ピカチュウの言葉が通じるのは、新しい相棒のティムだけで、他の人には「ピカピカ~」としか聞こえません。かわいいピカチュウのままです。この愛され系のペットキャラが、実は下世話なおっさんだったというアイデアは、オダギリジョーが脚本・監督・出演した人気コメディドラマ『オリバーな犬、(Gosh!)このヤロウ』(NHK総合)にしれっと流用されています。

西島秀俊がアフレコした「ピカピカ~」

 日本語版の吹き替えを担当しているのは、ティムが声優初挑戦の竹内涼真で、ピカチュウが西島秀俊です。西島秀俊は1971年生まれなのでどっぷりおじさん世代ですが、ここまでおしゃべりなキャラを演じるのは珍しいでしょう。過去の声優としての出演は、宮崎駿監督の『風立ちぬ』(13年)とディズニーアニメの実写化映画『ダンボ』(19年)など数作です。

 西島自身は「人形浄瑠璃の人形みたいな役者になるのが理想」とかつて語っていたので、今回のようなおしゃべりなピカチュウを演じるのもありなんだと思います。普段の役づくりと同じように、全力でピカチュウを演じたそうです。

 前回の放送(2022年5月)では、西島秀俊の「やめろ僕かわいいのに……ピカピカ~」という台詞がSNS上で大いに盛り上がりました。西島ファンの方は、ぜひ悶絶してください。

 軽い気持ちで見始めた『名探偵ピカチュウ』ですが、ハリウッドらしく3Dアニメの技術はけっこう進んでいます。また、主人公は失われたものを探し求め、その過程で別の大切なものを回復するというミステリー仕立ての作劇が米国映画は伝統的に息づいている感があります。

 一見すると人間とポケットモンスターたちが仲良く共存する理想社会のように思えるライムシティですが、ティムの父親はヤバい事件に巻き込まれたらしく、事件の裏には巨大組織の陰謀が隠されていることが分かります。最初はおっさんピカチュウのことを煙たく思っていたティムですが、謎を追っていくうちにピカチュウとの間にバディ(相棒)感が生まれます。さらに、一連の事件の元凶は、親子間の葛藤であることも浮かび上がります。