また、12年、13年、15年と3度にわたって『KOC』ファイナリストとなり、22年に解散したうしろシティの「記憶喪失」も、記憶を亡くした人とその友人という設定だった。

 こちらも交通事故で記憶を失った金子の病室を阿諏訪が訪れるところからスタート。阿諏訪が金子の記憶を戻そうと、以前、金子とバンドを組んでいたことを説明するが、そのバンドの説明を聞けば聞くほど、金子自身がそれを以前の自分だと信じられなくなっていくという展開。うしろシティらしい「苦い青春、イタイ過去」のニュアンスが詰め込まれた作品となっている。

■記憶をなくした人と、その恋人

 17年の『KOC』ファイナリストである男女コンビ・パーパーの「記憶喪失」はカップル設定。記憶を失ったほしのの病室を訪れたあいなぷぅが、「記憶を失う前にお金を貸していた」と言い出して……。

 パーパーというコンビの間に常に漂う微妙な距離感がコント上でも「本当に付き合っていたのかどうかも怪しい」という空気を醸し出しており、よりあいなぷぅのヤバさが際立っている。

 21年『KOC』ファイナリストのジェラードンは、得意の映像コント「記憶喪失を心配して、彼氏が駆けつけて来たけど……」。記憶を失ったかみちぃ(女形)目線のカメラの前に彼氏を名乗るアタックが現れるが、どう見てもタイプではないその男性に疑いの目を向けるという設定。ジェラードン最大の武器であるアタックのキャラ造形に全振りしたネタで、途中、かみちぃの記憶が戻るという展開もある。アタックのキャラ芸が強いので、この程度ネタバレしてもおもしろさはまったく損なわない。

■記憶をなくした人と、医師

 16年の『KOC』王者であるライスの「記憶喪失」は、記憶を失って長年入院している患者と、その担当医。すでに記憶が戻っていると訴える患者・田所を、医療費収入のために入院させておきたい医師・関町が知恵を絞って引き留めようとするネタだが、その方法が突飛ながら理にかなっていて、ネタを作っている田所の発想力・構成力、それにワードの精度に目を見張る。「普通の記憶喪失ネタはやらない」という強い意志を感じるし、その難題に成功しているのは、やはり王者の風格といえそうだ。