◆「なるほど」と「にっこり」のハイブリッド
転換点となった出演作品を経て、『虎に翼』の航一役で神秘的な雰囲気に磨きをかける。第85回で、航一が寅子と娘・優未(竹澤咲子)と食事する場面。「航一さんは戦時中に何か……」とたずねる寅子に対して、右手人差し指を静かに唇にあてて「秘密です」とだけ答える瞬間、航一の横顔がこれまででもっともアップで写る。
そのあと、お会計を払うために座敷を出た航一が襖の前で立ち止まり、うつむく。これもやや寄りの横顔。あるいはその直前。杉田兄弟弁護士の兄・杉田太郎(高橋克実)が、優未を見て戦死した孫娘を思い出して号泣する場面。
太郎のことをあまりよくは思っていなかった航一が彼のことをぎゅっと抱きしめる。「ごめんなさい」としきりに謝る航一も横顔。不思議な空気感を持った人ではあるが、どの横顔もそれぞれ温かい。
その座敷席は、杉田兄弟が主催する麻雀大会のためのものだった。頑張って麻雀を習得しようとする寅子が、麻雀牌が入った袋を取り出す第86回の場面もいい。大の麻雀好きの航一が、にこっとして「なるほど」と発する表情は、寅子が「航一さんの拠り所」と指摘する「なるほど」と「にっこり」のハイブリッド。
しかもここは横顔ではなくちゃんと正面から。最高裁判所人事課長・桂場等一郎(松山ケンイチ)のトレードマークであるへの字とハの字へ自在に変形する唇に匹敵する強烈なハイブリッドだ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu