◆横顔ばかり写る理由

『虎に翼』© NHK
 なんでちゃんと航一の顔全体を写してあげないんだろう? カウンター内から航一の顔正面を捉えても、すぐに横を向く。なかなか顔正面が写らず、カメラは彼の横顔ばかり意図的に捉えているように見える。気づけば、この場面も横顔、あの場面も横顔という具合に。

 その理由はたぶん、寅子と出会って以来、航一がどんどん心を開いていく素直な変化を捉えるためだと思う。あんなに取り付く島がない人物像だった彼が、第16週第79回以降、優しく微笑むようになった。

 第18週第87回では、猪爪家の元女中・稲(田中真弓)がライトハウスの手伝いに入り、カウンター内で寅子の女学生時代についての昔話を繰り広げる。

「昔からお優しいお嬢さんでしたから、知らないうちに人に寄り添ってしまうというか、相手もどんどん心が近付いてしまうというか」と話す稲に対して、カウンター席で傾聴していた航一が「なるほど」と発する。

 自分の心の変化をはっきり認識した瞬間だが、ここでも航一の顔が正面から短く写されたあとにすぐ横顔が写ることで、表情の陰影が強調されている。

◆美麗俳優の魅力

『虎に翼』© NHK
 このカウンター席、言うなれば、航一の心情変化と表情の変化を定点観測するための場所。観測の最適なポジションとしてカメラは、岡田将生に対して横向きに置かれる。

 考えてみると、日本屈指の美麗俳優である岡田将生の美しさとは、横顔の魅力として引き出されることが多い気がする。キャリアの重要な転換点になった『昭和元禄落語心中』(NHK総合、2018年)では、老けメイクを施して落語家・八代目有楽亭八雲を演じ、顔正面ショットが基本ながらときおりインサートされる横顔が、研ぎ澄まされた美しさをたたえていた。

 背筋がこおるほどの美しさにまで到達するのが、さらなる転換の演技を印象付けた『ドライブ・マイ・カー』(2021年)。同作の主人公・家福悠介(西島秀俊)と同乗する夜の車内。長い会話場面で、岡田将生の横顔が恐怖に縁取られる。役柄としては、殺人を犯した俳優の横顔でもあった。