戦後の混乱期、家族を養うため、寅子は人事課長である桂場の元にやってきた。第1回のこの冒頭場面の続きは、本格的に戦後に時代設定が移る第10週第46回で描かれる。
最初門前払いされそうになった寅子を桂場の元へ連れてきたのは、ライアンこと、民法調査室主任・久藤頼安(沢村一樹)だった。寅子の採用をしぶる桂場に「取ってあげなよ」とアシストしつつ、桂場の鼻にさつまいもの皮なのか(?)、とにかく何か皮っぽいものが付着しているのをひとつまみ、躊躇なくさりげなく取ってやる。桂場の鼻に長いことくっついていた、この付着物が不思議と印象的なのだ。
◆第1回と最終回をきれいな一本線でつなぐ
するとやっぱり、桂場と付着物の組み合わせがもう一度、印象深く描かれることになる。第46回からずっとあと、もうとっくに忘れた頃。まさかの最終週第129回で、付着物くんが再登場(!)ときたもんだ。
竹もと改め「笹竹」になった店で、寅子の横浜家庭裁判所所長就任祝いをしているところへ、長官職を退任して早くも隠居暮らしな和装で桂場がやってくる。寅子たちを見るなり、うわっ、お前かという顔をする。
寅子が甘いものを食べようとした桂場をいつも寸止め状態にしてきたように、桂場も店で彼女と出くわすと決まってこの顔をする。で、気になる付着物。新たな季節、外に舞う桜の花びらを右眉毛の上にくっつけてきた。
◆画面に目を向けさせた存在
優秀な判事として信念を貫き通して、長官にまでなった桂場がきちんと付着物をともなって登場することにより、第1回と最終回が、きれいな付着物サンドイッチとして一本線でつながる。
第23週第111回の原爆裁判以降、加速度的に戦後の社会問題を解説する授業と化した本作にあって、時間経過とともにどんどん無駄な動きを省いていく松山ケンイチが、桂場等一郎そのものを見つめるということを促した。