恵美の行先は、書道部でした。マジメに書道をしている部員の後ろで、床に大きな半紙を敷いて、たいへん見事な「青春」という文字をしたためている男がいます。顔を上げると、これはもう誰が見てもスーパーイケメン。きれいなジャイアンならぬ、きれいな武田双雲といった趣の風見先輩(松本怜生)に見つめられ「俺と一緒に書道せん?」と迫られると、結ちゃん「もしかして、うちの青春、始まった?」とポヤーンとしてしまうのでした。

■まずは『おむすび』のギャル観

 おそらくは、このドラマにおける「ギャル」と対照的な存在として登場したのが、「書道部のカリスマ」ということなのでしょう。トレンディとトラディショナル。アイライナーと毛筆。キラキラリップと墨汁。カラフルとモノクローム。ギャル文化と正反対の男に心を惹かれる結ちゃんを描くことで、まずは主人公をギャルから引き離しにかかっているように見えます。

 そして『おむすび』のギャル観とまず提示してきたのは、ルーリー役のみりちゃむという新人でした。朝ドラを見る人たちにとっては馴染みがない俳優さんだと思いますが、主にお笑い好きの間では超のつく有名人です。登録者200万人を超えるYouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』でテレビプロデューサーの佐久間宣行氏が発掘した同チャンネルのエースで、アンジャッシュ・渡部建やダイアン・津田篤宏、TKO・木下隆行といった面倒な先輩お笑い芸人たちを相手に堂々としたエチュードを披露し、その演技力と豊富な語彙でぐいぐいと評価を上げているギャルタレント。朝ドラへの抜擢はまさにシンデレラストーリーそのものですが、それにしても重責を与えられたものです。

 で、そのみりちゃむなんですが、基本的にはYouTubeとおんなじ感じでお芝居をしています。そりゃ固さはありますけれども、特に演出が入っている感じがしない。

 つまりは、20年前のギャル役を、20年後の本物のギャルがそのまま演じているわけです。ギャルの物語を作る上で「ギャルってどんな人なの?」という定義付けが必要になるはずですが、そこらへんをみりちゃむの仕草とセリフ回しに全部頼ることになっている。