しかし、例えば、アメリカでは、妻の所得が夫の所得を追い抜くと、離婚率がグッと高くなる傾向があることが分かっています。また、女性活躍のモデルとして頻出する北欧でさえ、30年前は、『上司の目が気になる』『出世のチャンスが奪われる』といった理由で、男性の育休取得はほとんどありませんでした。

 こうした背景には、『男性のほうが女性より稼いでいて然るべき』『男性は仕事、女性は家庭』という保守的な家庭観が社会の土台にあります。この傾向は日本で特に強いとはいえ、世界が抱える共通の問題でもあります。

 日本社会は、『男性は大黒柱であるべき』といった前時代的な価値観に強く縛られている傾向にあることが調査でもわかっています。そのため、『妻が夫より稼ぐ』ことに男性も女性も耐えられない可能性が高い。本来なら、社会が夫婦の形をつくるより、夫婦それぞれが模索しながら最適な関係性を構築していくのが、健全な夫婦の在り方だと思いますが、『妻の方が夫より稼ぐ』のが当たり前として完全に社会に受け入れられるのは、もう少し先になりそうです」

“男らしさの呪縛”に苦しめられているのは、何も日本の男性に限ったことではないのです。

【山口 慎太郎氏】

経済学者。東京大学大学院経済学研究科教授。専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」と、労働市場を分析する「労働経済学」。著書に「『家族の幸せ』の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実」(光文社新書)、「子育て支援の経済学」(日本評論社)がある

<取材・文/谷口伸二 画像/Adobe Stock>