ステージから姿を消したと思ったら、アリーナ後方に現れ三日月のセットに向かう。彼女が座ると月がせりあがり、360度回転しながらそのまま「logical」と「enough for you」を歌った。多くのファンが彼女を間近に見られる気の利いた演出。月に座った姿が絵になり、2.5次元の世界に入り込めそうなのも強みだ。
ステージに戻り、アコースティック・ギターを鳴らすギタリストの隣に座り、「happier」などを繊細に歌い上げたのもよかった。ドリーミーなセクションからさらにしっとり歌い上げるセクションをつなげる構成で、観客は前のめりで彼女の歌声に耳を傾ける。
衣装チェンジは4回。基本、ビキニトップとショートパンツの色を変えるだけなのだが、気分が変化を伝えるには十分。最後は真っ赤なレオタードに着替え、炎を映し出すバックドロップの前にギターを抱えたオリヴィアが仁王立ち。ふたりのギタリストと一斉にギターをかき鳴らす様子は完全にロックコンサートだ。
「obsessed」で四つん這いになったあたりは官能的で、”かわいい人”からすぐに内面を含めて”美しい人”になってしまうんだろうな、と思った。その意味でも、初来日公演をキャッチできたファンは、オリヴィアの貴重な姿を目撃したことになる。クライマックスの「all-american bitch」の凛々しさは戦隊ヒーロー並み。曲間で「嫌なこと、嫌な人を思い出して、思いっきり叫んで見て!」と煽り、会場中が大絶叫になったのも楽しかった。
アンコールでは白いタンクトップとジーンズのショートパンツで登場し、「good 4 u」、「get him back!」を歌い切った。演技に裏打ちされた表現力と本物のミュージシャンシップが出会ったとき、何が起こるのかを体現しているのがオリヴィア・ロドリゴであり、少し空恐ろしい才能だと思いながら会場を後にした。(文:池城美菜子)