雨混じりの悪天候でも有明アリーナにはツアーTシャツやオリヴィアの好きな薄紫色を身につけたファンが押し寄せて、すべてが高揚していた。スパンコールのミニスカートがよく似合うオリヴィアと同世代の人から、親同伴のもっと若い人、それから意外と年季の入った洋楽ファンまで目についた。プロデューサーのダン・ニグロとがっぷり組んだ『GUTS』は、幅広い層にまで届いているのだ。

photo by Jesse DeFlorio

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19時5分、暗転。星形の下半分を切り取ったような、逆Vの字になっているステージの中央にオリヴィアが姿を現した。1曲目は、「bad idea right?」。ギタリストを2人配したバンドは、バック・コーラスを入れて7ピース。全員女性だ。

続いての「ballad of a homeschooled girl」で、場数を踏んでいる凄腕を揃えているのがすぐに伝わってきた。3曲で早速「vampire」を投入。2023年を代表する曲になったので、合唱率がひときわ高い。逆V字のステージは花道がふたつとなり、より観客席と近くなる。ステージに一番近いアリーナ席前方はオールスタンディングになっていた。

photo by Jesse DeFlorio

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『SOUR』からの「traitor」で8人のダンサーが登場。オリヴィアと揃いのダンスを踊るのではなく、パフォーミング・アートのような振り付けとメークで驚く。人種はさまざまだが、”かわいい”メーキャップを施していないあたり、オリヴィアからのメッセージが透けた。彼女はアメリカの中絶が禁止されている州ではコンドームを配り、人権団体に熱心に寄付をしている”アーティスト”なのだ。

出世曲「drivers license」はピアノに弾き語りで披露。「teenage dream」では、「19歳になる直前、大人になるのがすごく怖かったときに書いた曲なの。いまは21歳だから、18歳だった頃の自分に“大丈夫だよ“って伝えたい」と語った。赤ちゃんの頃からの映像をバックドロップで流し、観客を長いこと彼女を知っている気分にさせる。『GUTS』の魅力は、行間からあふれ出る感情の機微だ。

日本盤の対訳をしながら、ふっと目頭が熱くなった「making the bed」は、ベッドを整えるという日常の行為に、「いまの状況になったのはほかでもない、自分が望んだから」とスターダムにいる悩みを重ね合わせて秀逸。この曲をベッドに見立てた台に寝そべったまま歌い上げて、身体能力の高さを示す。