2つ目は、第22週第108回。寅子が女性法曹の労働環境に関する意見書を読んだか、所長室に確認にくる。取り合おうとしない桂場に対して、寅子が激しく反論。突き返そうとした意見書を右手に持って静止させている桂場が、元あった位置に手をそろりと戻す。所長室で完全にひとりになった桂場の動作が、そろりで極まる。

◆最高純度の孤独として結実

 どうやら桂場は誰かが退室したあと(あるいは退室と同時)で、こうした微細な動きをする傾向にある。3つ目は、最高裁判所長官室での動作。第24週第120回、今度は寅子ではなく、ライアンこと、東京家庭裁判所所長・久藤頼安(沢村一樹)がやってくる。

 久藤は、亡くなった裁判官・多岐川幸四郎(滝藤賢一)が書いた少年法改正についての意見書を持ってくる。「じっくり読んで」と言って、書類を桂場の机にそっと置き、久藤は、静かに退室する。桂場は押し黙った状態で、口元にあてていた左手を下ろす。そして少し目をつむったあと、書類が置かれているほうへ視線を遣る。

 怒りや悔しさが同時に押し寄せ、まぜこぜになった恐ろしげな表情。やや顎を引いて、顔を固定させ、ただ一点を見つめる。画面上ではしばらく無音状態が続く。まるで1920年代の(特にドイツあたりの)サイレント映画に登場する強面のように写っているなと思った。

 桂場は、書類を手に取り、ページを開く。ちくしょう。何が何でも中身を読んでやるぞという激しい情念を感じる。ひとり長官室で孤独にうちひしがれる桂場の動作は、冒頭で引用した寅子の言葉とは裏腹に、所長室での2つの動作を経て、動作そのものが最高純度の孤独として結実している。

◆長官室のドアをノックする航一

『虎に翼』© NHK
 こうやって桂場の細かい動作に注目し、さっきの場面で最高純度のものを目撃しては、長官室で次にどんな動作が繰り出されるのか、まったく想像がつかない。長官室の桂場がひとり、想像上の多岐川から非難され、激昂する場面があったりするが、第25週第125回、思わぬ人物が場外からするりと入り込んだ。