小学校低学年の記憶なんて、そんなもんなんだということを最終回に来て言い放つわけです。海ちゃんは夏くんに甘えたり頼ったり、困らせてみたりする。それは実にいじらしい姿ではありますが、海ちゃんが何かを判断して選択した行動ではない。生き物としての本能、遺伝子に刷り込まれた生存戦略としてのいじらしさにすぎない。
だから、このドラマで描かれたのは海ちゃんにとって「忘れられる物語」でしかない。どうせ海ちゃんは忘れちゃうのに、夏くんは海ちゃんのために苦悶し、大好きだった美人の年上彼女・弥生さん(有村架純)ともお別れすることになっちゃった。
残酷な話だと思うんですよ。夏くんが実父のことを忘れて生きてこられたのは、新しいパパが夏くんにしっかりと愛情を注いで、ママと一緒に健全で穏やかな家庭を築いてきたからです。もっとシンプルにいえば、両親がそろっていて、両親の仲がよかったからです。
夏くんも前々回あたりで、海ちゃんを言いくるめようとしていました。「水季はもういないよ」って、何度も海ちゃんに伝えていた。
きっと小学生の夏くんも、ママに「お父さんはもういないよ」と言われてスネたりヘソを曲げたりしたこともあったと思うんですよね。でもママは断固たる決意でもって「いないよ」と言い続けたんでしょう。その結果が、あの夏くんの幸せステップファミリー生活であって、それはママのお手柄でもあったわけです。
夏くんは、ヘソを曲げて家を出ていった海ちゃんの行動に激しく狼狽し、津野くん(池松壮亮)の無遠慮な「おまえ」にビビり倒し、弥生さんは弥生さんで水季の遺書に足元をグラつかされて、結局、幸せステップファミリーへの第1歩を踏み出すことができなかった。
ママは夏くんに実父のことを忘れさせるくらいにステキな風景を見せ続けてきた。並外れた努力をしてきたのだと思います。
夏くんの弟である大和(木戸大聖)も同じです。幼いころに亡くなった実母の写真を部屋に飾りながら、ふだんは平気で忘れていられる。