◆アップデート③結婚式で主人公に感動させない。
結婚がいいものだなんて思えない――寅子はなんとなくそう思っているわけではない。法律への関心が芽生え、自分自身でも婚姻制度について調べている。
寅子にも、親友と兄の結婚を祝う気持ちはある。披露宴の場でも、誰もが笑顔になっているのを見て「ここには幸せしかない」とは思う。だが、冷静に「ここに自分の幸せがあるとは到底思えない」とも思う。
「主人公に結婚式で感動させることで、結婚という選択や制度自体を肯定しながら話を進めることもできたはずです。しかしそれをさせなかったことで、このドラマはなんとなく漠然と『結婚もいいよね』的なニュアンスを出すことをしないという、強い意思をもってして作られているのだと感じました。それはその後の展開において、『結婚って罠だよ』と寅子が喝破(かっぱ)していることでもわかります」
結婚とは、ひとつの“契約”である。寅子の少女時代の日本で、その契約は対等の者同士のあいだで交わされるものではまったくなく、結婚した途端に女性は法的に“無能力者”になる。寅子は、すでにそのことを知ってしまっていた。
「感動もしないし、男だけが浮かれて女たちは準備や目配りに追われている様を、寅子が歌いながら冷静に見ているあのシーンは、男女の不均衡を可視化する演出も含めて本当に見事だったと思います」