そうした戸塚型リアクションの演技が、『虎に翼』でさらに奥深いものになっている。明律大学に通う学生時代の轟は、寅子たち女子部の面々に対して、あからさまな女性差別を繰り返していた。
一方で自分の間違いを潔く認める人でもある轟は、寅子との交流によってだんだんと考え方をアップデートさせる。その間、戸塚はとにかく相手のアクションに対するリアクションを繰り返しながら、轟の心の成長を可視化していた。
戦後に設立した弁護士事務所での轟は、不当な差別や不平等と戦う毅然とした態度を貫く精神性にまで高めている。ゲイであることを自認して同性のパートナーを得て以降は、より穏やかかつ熱い人間味を醸す。
毅然とした熱血な同性愛者という轟像として、監督とプロデューサーから「内面は三島由紀夫」と言われた戸塚は「腑に落ちた」そうだが、この三島由紀夫的な内面的世界も轟が年齢を重ねていくごとに穏やかになっている。
第23週第114回では、三島文学を読み解く重要なキーワード「大義名分」という一語を轟が威勢よく発する場面がある。原爆裁判の原告として法廷で証言をしようとする吉田ミキ(入山法子)を気遣う轟が「お陰様で、こちらも恋人の家に泊まる大義名分ができましたね」と言う。それは、轟の内面へ向けた戸塚のリアクションの演技が特に鋭く反射した瞬間だと思う。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu