こんなに温かく、楽しい職場だったら、コミュ障のまひろもバイトが続くかも。そう思わせた前半から一転、後半はちさと&まひろが裏の顔を見せることになります。実はこの居酒屋は犯罪者グループがヤバいお金を洗浄するためのお店だったのです。トラック運転手組合が実は犯罪者組織でもあったという、マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』(19年)の世界ですよ。

 その日のバイトが、無事に終わります。「あいつら、俺たちと同じ目をしてる。仲間にならないかな」とちさと&まひろに親しみを感じていた店長も、コミュ障のまひろと仲良くなったベジータさんも、インスタの更新に熱心だったマユも、ちさと&まひろのサプレッサー付きのハンドガンによって、あっさりとあの世送りにされるのでした。このときのちさと&まひろの目の冷たいこと冷たいこと。ドライアイスの塊を、片手でぎゅっと握りしめたかのような痛々しい冷たさです。

 居酒屋のホールに倒れたベジータさんのシャツは血で染まり、硝煙もかすかに漂っています。TVドラマらしからぬ、とてもリアルな殺しの現場です。世間の常識になじめずに悩み、悪酔いしていたまひろに親近感を抱いていた視聴者には、ショッキングなシーンだったのではないでしょうか。

 ちさと&まひろは生きづらさ、働きづらさを抱えるZ世代の象徴のようなキャラクターです。でも同時に『ベイビーわるきゅーれ』の「ワルキューレ」とは、北欧神話における戦場で死ぬ者と生き残る者とを選別する乙女たちであることを思い出させた瞬間です。ワルキューレは戦いの神オーディンに仕え、生殺与奪の権を握る存在なのです。

 慣れないバイトであたふたするのもまひろの本当の姿であり、また本業の殺し屋として平然とターゲットを処理できてしまうのも真実のまひろなわけです。すごく身近に感じるけど、実はとても遠い存在なのが、ちさと&まひろという女の子たちです。

ちさと&まひろは、視聴者の分身