「海のせいでみんな寂しいの? 海、最初からいなければよかった?」
この一打で完全に足元を見失った夏くんに海ちゃんがとどめを刺しにきます。
「ママは寂しそうだった」
手を握っている夏くんを振り払う海ちゃん。
「なんでママいないって言うの? 海、ママとずっと一緒にいたもん。いなかったの夏くんじゃん!」
ゲボォ……っと嘔吐しちゃうところですが、ここは月9ですし(元)ジャニタレですからね、代わりに一筋の涙を流すのでした。
■人の心を殴る術を知っている
本当に生方さんという脚本家は、人の心を殴る術をよく知っている方だと思います。夏くんの「一生懸命」や「誠意」「優しさ」「気遣い」「覚悟」そして「愛情」といったものがいかに無価値であり、海ちゃんにとってなんの癒しにもならないかを実にわかりやすく、夏くん本人に突き付けてきました。
「だったら最初っから現れてくれるなよ」
夏くんじゃなくても、そう叫びだしたくなるシーンです。実際、夏くんだって1,000回くらいその言葉を飲み込んだと思う。あんなに美人の年上彼女と別れることになって、将来は結婚だって考えていたのに、その全部を台無しにしたのは、海ちゃんのためなのに。
『くまとやまねこ』で、くまは森をさまよい、やまねこと出会いました。
海ちゃんはそうではありません。生前の水季は海ちゃんの手を引いて、はるばる経堂を訪れ「あのアパートに2階に、やまねこがいる」と具体的に指し示してから死んでいったのです。
くまにとって、やまねこの奏でる音楽が心の支えになりました。しかし、夏くんという男は、自分の歌を歌っている人間ではありませんでした。自分の人生を豊かにすることに、極めて消極的な人間でした。寂しさに憑りつかれた海ちゃんを癒せるような、そんな人生は生きてこなかった。
やまねこになる資質のない人間が、やまねこに指名されてしまったお話。やっぱこれ、特級のホラーだわな。
(文=どらまっ子AKIちゃん)