話の通じない夏くんに嫌気がさした海ちゃん、いよいよ家出をすることにしました。今の夏くんにとってもっともダメージを与える行動は、家出です。海ちゃんは賢い子なので、自分が家出をしたら夏くんがどれだけ苦しむかもわかっていたことでしょう。そして、夏くんにとってもっとも屈辱的な行先、津野くんの図書館に身を寄せるのでした。
かつて、水季が死んだことについて「俺のほうが悲しい自信がある」と夏くんに対してマウントを取っていた津野くん。何年もの間、水季と海ちゃんの親子関係を見てきたので、海ちゃんの話がわかります。
海ちゃんが自分の意思でじいじとばあばの家に帰ったことを夏くんに告げた津野くん。ここでも、夏くんは津野くんから痛烈な一撃を食らうことになりました。
「(水季が)いるとかいないとかの話してるの月岡さんだけです。いたとか、いなくなったとかの話をしてるんです。わかんないですよね、南雲さんがいたときもいなくなったときもおまえいなかったもんな」
ヒィッ……! おまえって言われた夏くんは完全に硬直。その津野くんの言葉を飲み込めないまま、じいじの家に海ちゃんを迎えに行くのでした。
■言葉の通じない生き物がいる
海ちゃんはママと寝ていたベッドで『くまとやまねこ』を読んでいました。ゆっくりと引き戸を開けて姿を現した夏くんを一瞥すると、また絵本に視線を戻します。
年上彼女とよろしくやってた日々の中に突然姿を現し、「夏くんのパパ、いつはじまるの?」などと詰め寄ってきたその小さな女の子は、夏くんがすべてを受け入れたタイミングで、まるでそのタイミングを見計らったかのように、明確な拒絶を示してきました。夏くんという人物を拒絶したわけじゃない。その人との2人での生活を拒絶したのです。もう海ちゃんは夏くんにとって、言葉の通じない生き物と化しています。
この期に及んで「図書館にもここ(じいじの家)にも水季はいないよ」と繰り返す夏くんに、海ちゃんはカウンターを繰り出しました。