あるところに、心優しいくまがいました。ある日、くまのお友だちだった小鳥が死んでしまいます。くまは、深い悲しみの中で小鳥のためにお葬式をしますが、なかなか小鳥の死を受け入れることができません。

 悲しみから逃れるように、くまは森の中をさまよいます。そこで1匹のやまねこに出会い、やまねこが奏でる音楽に心を癒され、再び元気を取り戻していきます。

 いなくなってしまった小鳥とはもう会えないけれど、やまねこのおかげで、くまは小鳥との思い出を胸に新しい一歩を踏み出すことができたのでした。

 というのが、絵本『くまとやまねこ』のあらすじです。

 ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)の中で、若くしてがんを患い、7歳の娘・海ちゃん(泉谷星奈)を残して亡くなることを悟ったママ・水季(古川琴音)は、海ちゃんに『くまとやまねこ』を何度も読んでほしいと言って死んでいきました。小鳥はいなくなってしまうけれど、いつかやまねこと出会えるから。そういう思いだったのでしょう。

『海のはじまり』第11話、「やまねこは誰だ」という感じで、振り返りましょう。

■「いなくなる」という逆虐待

 海ちゃんを引き取り、世田谷のアパートで2人暮らしをすることにした夏くん(目黒蓮)。認知もしたし、海ちゃんの苗字も「南雲」から夏くんの「月岡」に変わることになりました。

 新生活を迎え、夏くんは海ちゃんを自分の町の図書館や新しい小学校に連れていきますが、海ちゃんは冴えない表情。海ちゃんは賢い子なので転校初日こそ首尾よくこなしましたが、やはり寂しさは募るばかりです。

 ついこの間まで暮らしていたじいじ(利重剛)とばあば(大竹しのぶ)の家や、ママが津野くん(池松壮亮)たちと一緒に働いていた図書館には確かにあったママの面影が、夏くんと暮らす世田谷にはまるで感じられないのです。

 いなくなったママの面影についての話を夏くんに聞いてほしい海ちゃんでしたが、夏くんは「水季はもういない」の一点張り。何しろ夏くんは水季と海ちゃんが暮らした日々を一秒たりとも共有していませんので、7歳の子どもに対してもあくまで事実関係を示すことしかできないのです。