◆完治も改善もむずかしい疾患

素直な性格のナオさんの顔に「えーーーー」という気持ちが丸出しになっている光景が、目に浮かんでしまった。

面接は話が盛り上がることなく終わり、予想どおり採用されなかった。

化学物質過敏症沼202407
その後、金銭面的にも自然食はやめ、いまでも不調は改善されないままだ。「電子レンジを使うときは、正面に立たない(電磁波対策)」「健康茶を飲む」などの工夫を、細々とつづけている。

ひとり暮らしで就労も外出もままならず、社会から切り離されがちな生活を送る毎日のなかで、ふとこう思うという。

「無農薬の野菜を食べてこなかったから、こうなってしまったのかな」

ナオさん自身、それが根拠のない呪いのようなものだという自覚はあるという。それでも、方々で言われたそうした言説が、いまでも頭を離れない。

化学物質過敏症沼202407
化学物質過敏症の人にとって、自然であることが重要なのは当然だろうが、商業的に都合よく語られる「自然が一番」という主張の罪深さが、実感できるエピソードである。

<取材・文/山田ノジル>

【山田ノジル】

自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru