◆どうせなら、その会社で働きたい

そこからまた大胆な行動に出るのが、ナオさんらしい。どうせなら、その自然食品会社で働きたいと思い、募集の出たタイミングで面接を受けたのだ。

ところがそこで、ナオさんの心を凍りつかせる言葉が次々と飛び出した。

化学物質過敏症沼202407
採用面接における一般的なやりとりが終わると、フレンドリーなノリの面接官は、こんな話をはじめた。

「なるほど~。林田さんは化学物質過敏症なんですね。でも、そのほうがいいんですよ! 添加物や農薬をとらなくてすむんですから!」

その瞬間、会社に対するナオさんの信頼が消滅した。

化学物質過敏症によって、いままでどれほど自分がつらい思いをしてきたか。

飲食店で使われる食材の添加物や農薬、すれ違う人の香料で不調が悪化するので、友だちと外食することもできない。頼れる家族はいないのに、病気で職を失った。不調をだましだまし和(やわ)らげ、必死に日常生活を取り戻そうとしている。

化学物質過敏症沼202407
それを「よかった」とは、さすがに聞き流せない言葉である。しかしナオさんの心中を置き去りに、どんどんトークに拍車がかかっていく。

「この前なんかねぇ、うちの若手社員が風邪をひいて。彼、前から昼ごはんにコンビニおにぎり食べてたんですよねえ~。そしたらもう、案の定! しかもそのうえ……風邪薬まで飲んじゃって! 3日も休んだんですよ!? 薬を飲まなければ、もっと早く回復したのに。薬や添加物って、本当に怖いです」