◆皿やコップが飛んできた

 ふたりは交際をはじめて半年で婚約、知り合ってから1年後に入籍。都心区の高層マンションに引っ越し、しばらくは平穏な日々が過ぎていった。ところが、結婚から約2年後のある日――。

「家事の分担に関して、ささいな言い合いになったんです。莉子が掃除することになっている脱衣所が何週間も放置されていたので、余裕ないなら俺やっとくよと言ったら、私は仕事で疲れてるのよと怒りだして」

 当時、莉子さんは定時で終わる事務仕事を短期間のうちに点々としていた。元来の人嫌いによってどの職場にも馴染めなかったからだ。月収は最高でも17万円。職場では常に神経をすり減らし、毎日ヘトヘトになって帰宅。もともと人より体力がなく、疲れやすい体質だったことも災いした。

 園田さんのほうも、仕事のトラブル処理に伴う連日の深夜残業で、疲労とイライラが溜まっていた。「疲れてるのよ」と言う莉子さんに思わず言ってしまう。「じゃあ仕事を辞めたら?」。実際、園田さんの収入だけでも十分に生活はできたからだ。すると……。

「莉子がヒステリーを起こしました。泣いてわめきちらしながら、皿やコッブや茶碗を次々投げつけてきたんです。ガチャーン! とものすごい音を立てて目の前で食器が次々と割れ、錯乱した莉子が怒号を発してきました」

※写真はイメージです
 突如、園田さんを動悸とめまいが襲った。立ちくらみがして冷や汗も出てきた。たまらずトイレに駆け込み、嘔吐した。

「僕、物を壊す系の人が……本当にダメなんです」

◆女性のヒステリーがトラウマ

 園田さんの生い立ちは少々複雑だ。

「両親は僕が4歳のときに離婚してるんですが、そのときの記憶は鮮明に残っています。とにかく父と母は仲が悪くて、しょっちゅう喧嘩。その母が、激昂するとヒステリーを起こして奇声をあげ、近くにある物を叩きつけて壊すんです」

 この強烈な体験により、園田さんは女性のヒステリーや、それに伴って物を壊すという行動に極度の恐怖心を抱くようになった。

「莉子のヒステリーで、当時の記憶がフラッシュバックしました。心臓がバクバクして……恐ろしかったです」

※写真はイメージです
 両親の離婚後、園田さんは母親に引き取られた。彼女は当時、関西のとある歓楽街でホステスとして働いており、そこの常連客と再婚。園田さんに新しい弟ができる。ところが、園田さんと継父は折り合いが悪かった。

「継父は昭和40年代に辺鄙な山間部の村から就職列車で上京した工員です。母親よりうんと歳上。その彼がものすごく感情表現に乏しい人で、何を考えているのかさっぱり分からない。すごく苦手でした。ときどき突然機嫌が悪くなって母や僕に当たるんですが、そのきっかけも全然読めないんです」