◆10年ほどSNSでの関係を続ける
「DMやコメントで、つかず離れずの関係を10年ほど続けています。彼は大学卒業後も結局帰国せず、フランスの金融機関で働いています。奥さんは画商をしながら自分も絵を描いています。時には奥さんとの夫婦仲を相談されるときもある。6歳になる女の子が喜びそうな日本の絵本について尋ねられることもある。優斗も多分、私を見知らぬ人と思うから、あれこれ相談できるんだと思います。
たまにセックス相談もありますよ。知ったふりしてアドバイスするんです。私のほうは、優斗としか経験ないのにね……。ネットって、いくらでも誰かに化けることができる。それが面白いとも思うし、でも自分はもう狂ってると思うんです」
SNSで見る彼は、いい感じに年齢を重ねている。やっぱりかっこいいし、今もし会っても好きになると思う。その彼と、まるでつきあっているような気分に陥りながらも、彼に対する恨みは消えない。
だから時折、彼のSNSを見ながら心の中では「死ね、死ね、死ね」とつぶやいてしまう。そのつぶやきがどんどん大きくなって耳鳴りのようになり、いつしかひとり暮らしの自分の部屋で大声で「死ねー!」と叫んでしまうときがある。ふと我にかえり、自分の言葉や、日々していることに自己嫌悪してしまうのだが、やめることができない。
「実はもう、心はボロボロなんです。これ以上続けていたら発狂しそうですし、いや、もう私は発狂しているのかもしれません……助けてください。お願いです、助けてください」
話しながら、彼女は最後には泣き崩れていた。誰にも話せずに長く抱えてきた思い。壮絶な苦しみだったと思う。根は深いと思う。
ただ救いなのは、彼女には善悪の判断ができるということ。そして、今の自分を変えたいという思いが強いということ。だから、きっと変わる。変わることができる。優斗さんの思いを変えることはできないのだ。他人は思いどおりになんていかないのだ。もう過去から解放されて、自分の人生を歩んでほしい。
※個人が特定されないよう一部脚色を加えています。
<文/安藤房子>
【安藤房子】
作家。恋愛心理研究所所長。離婚を機に日本初の恋愛カウンセラーとして独立。メールカウンセラーの草分け。心と身体両面からのアプローチで婚活・恋活女子を応援。著書に『愛されて結婚する77のルール』など。Instagram:@ando.fusako.loveブログ:恋愛心理研究所 安藤房子の「ココロとカラダのレシピ」