◆ついに目的の場所へ
女性は唯さんが降りる駅まで、親子のそばにいてくれます。さらに、唯さん親子が電車を降りるときには、ベビーカーを一緒に運んでホームへ出してくれたそう。
「別れ際に、私の肩をトントンと叩いて『お母さん、頑張ってね』と言ってくれたんです。あの時の感触は今でも忘れられませんね。肩を叩かれた振動が胸にまで響くようで、私は女性に感謝の言葉を伝えながら、溢れてくる涙を抑えきれませんでした」
その後、無事に目的の博物館へと着いた唯さん親子。
「息子はたくさんの電車に囲まれて大興奮でした。すごく楽しかったみたいです。行ってよかったなと思いましたね」
大好きな鉄道をたくさん見てはしゃいだ帰りの車内では、ベビーカーでぐっすり眠っていたそう。
「育児と妊娠で不安だった私にとって、車内で出会った女性は救世主のような存在でした。今はまだ子育てに追われていますが、私もいつか、困っているママに寄り添える人間になりたい。ちょっと無謀だと思うかもしれませんが、今は保育士の国家資格を取得するために育児の合間に勉強しています」
電車内で出会った名前も知らない人の存在が、唯さんの人生の道標になったようです。
<取材・文/maki>