母親のほうは、どうやら認知症が進んでいる様子。亡くなった夫の好物を詰めた弁当をどこかに届けようと自転車を駆り出し、その自転車で児童をはねてしまいます。よくあるおばあちゃんと子どもの衝突にも見えますが、児童のほうは骨折した患部が神経を圧迫して麻痺の可能性があり、母親も重傷を負っています。ケガだけでなく事態が極めて深刻なのは、冒頭に記した通り。堀井さんにとっても一大事です。

 児童と母親は「まごころ」に緊急搬送され、ヨウコさん(小池栄子)らの奮闘により、なんとか事なきを得ました。ここで、堀井さんがわざわざおっさんの服装で実家に帰り、必要以上に悪態をついていた理由が明らかになります。

 母親は、亭主関白で暴言ばかり吐く父親が好きだった。認知症が進み、息子である堀井さんと亡夫を混同するようになった母親に対し、堀井さんは父親を演じることにしたのでした。父の口癖をまねて母親を罵っていたのは、母親を喜ばせるためだったのでした。

 母親の幸せを願うひとり息子が、無理をして父親を演じていた。そういう、なんというか、いいお話でした。

■ジェンダーアイデンティティの人

 このドラマの放送前、公式ホームページが公開された際に、堀井さんの人物紹介として「ジェンダーアイデンティティで、その振る舞いや言動にチャーミングさを兼ね備えており」云々と書かれていたことで、界隈から大きな批判を浴びました。

 20年前なら「オカマで」と書いて通じるところ、時代を意識して現代風の文言に言い換えようとして、失敗している。本来なら「ジェンダーアイデンティティは女性で」と書かなければならないところです。

 その間違いはそのまま、このドラマのジェンダーにまつわる問題意識の低さを現していました。そういうの、雑に扱う人たちが作ってるんだな、という印象はどうしても否めなかった。

 だから、第1話から堀井さんの性別について「男かな、女かな」とみんなが話し合うシーンがあったことに驚いたんですよね。驚いたというか、あきれたんです。もちろん、公式ホームページの人物紹介を脚本家の宮藤官九郎本人が書いているわけではないでしょうけれども、あんな雑な問題意識で、そこ突っ込んでいくつもりなんだ、と。