◆アウシュビッツを見ないふりと気づいた瞬間、一気に鳥肌が立った
大きな庭付きの豪華な邸宅で豊かに暮らす一家。穏やかなその生活を追っていくうちに、彼らが住まうのはあのアウシュビッツ強制収容所と壁一個隔てただけの隣であり、一家の主人は収容所で所長として働いていることが分かる。
無機質で淡々とした“平和な”日常の合間に漏れ聞こえる不穏な音。映像と音の乖離(かいり)に戸惑い、あの家族があまりに気にも留めないから最初は私の空耳なのかと疑ったほど。
やがてこの人たちはあの音に慣れることを、塀の向こうにある事実を見ないふりすることを選んだのだ、と気づいた瞬間、一気に鳥肌が立った。人間とはここまで感覚を麻痺(まひ)させ無関心になり得るものなのか。