◆温和な妻の中に狂気を滲ませる内田有紀の怪演

契約が成立すると、自分自身が不妊治療を経験しているからこそ、治療を受けるリキの心と体に寄り添おうとする悠子。そんな優等生のような悠子に大きな変化が訪れたのは第6話。前述の通り、父親が誰か分からない双子を妊娠し、中絶を検討していると相談してきたリキに、悠子は産むことを強く望みます。なぜだろう。自分が愛する基の子どもではないかもしれないのに。

リキの妊娠を純粋に喜び、バレエの素質の話ばかりする基に、苛立ちを隠せない悠子。そんな妻の様子を見た基は「産めなかったからって劣るわけじゃない」という無神経な言葉をかけます。そして悠子の感情は爆発。「産めることなら産みたかった。でも基は子どもを諦めてくれなかった」と。愛する人の子を自分で産みたい“欲望”が満たされなかった悠子は、その“欲望”を歪ませていくのです。

産めなかった悠子に中絶の話をするリキへの苛立ち。悠子よりも自分の遺伝子を諦めなかった基、そして千味子への憤り。もしかしたら悠子は、基の子ではないかもしれない子どもを欺きながら育てることで、基や千味子、リキにも一矢報いたいのかも。そんな狂気じみた“欲望”を宿した悠子を、もう誰も止められないのかもしれません。上品で温和なセレブ妻の影にそんな感情を滲ませる、内田有紀の怪演の凄まじさに毎週驚かされます。

夫・基もまた稲垣吾郎にとってのハマり役です。世界的バレエダンサーとしての絶対的自信と優生思想。悠子を追い詰める自分の欲望をさらっと口にする基を、どうにも憎めないキャラクターにしているのは、稲垣の功績といえるでしょう。