◆父との関係を疑いながらも、深愛を憎めないハルキ

 ハルキはとうとう、もう生きていてもしかたがないと歩道橋から飛び降りる決意を固める。まさに手をかけて体を浮かそうとしたその瞬間、深愛から電話がかかってくる。

「泥濘の食卓」
「今日、おかあさんがいないからうちに来ない?」

 ハルキは深愛の不倫相手・夏生の息子である。ふたりがちふゆに襲われたあと、病院で息子を迎えにきた夏生と3人が顔を合わせたとき、ちふゆは言ったのだ。

「ハルキと彼女がどこかへ行っちゃおうかという話をしていて、私はそれはダメだよーって言ったの」と。夏生は、なぜ息子が深愛を知っているのか疑問に感じており、ハルキは父と深愛との関係を疑っている。自分が憧れに近い感情を持っている深愛が父の不倫相手だと信じたくはない、だが父に嫌悪感をもっても深愛を憎めないのは彼にとってはつらいところだろう。