スタジオも出囃子も、今と比べれば格段に暗い。そこに登場したトップバッターとして登場した千鳥・大悟の顔も格段に怖い。確かに、客席は終始ざわついているし、スベっているといえる状況だといって差し支えないだろう。審査員の得点は、今では考えられない70点台が連発する。だが、千鳥の漫才が最近のものより劣っているという印象はない。むしろ、スタイルは完成しているように見える。

 4組目にインディーズ時代からの千鳥の盟友・笑い飯が登場すると、お笑い史に残るネタ「奈良歴史民俗博物館」で千鳥より100点以上高い点数をマークし、千鳥は暫定席から消える。大悟は「これが最後のテレビになるのかな~」とおどけてピースサインをしていたが、その目はまるで笑っていなかった。

 千鳥に続いて登場した麒麟も、完成度の高い漫才を披露する。むしろ08~10年くらいの『M-1』で見られた手数重視時代のスタイルに見えるし、特にスベっているようにも見えない。だが、こちらも7人中4人が70点台をつけている。このとき、規定の4分に対してネタ尺が長すぎたことが話題になったが、川島がこの日のラジオで「(スベりすぎて)このまま終わったら死ぬと思ったので6分やった」と明かした。

 その後、当時は大井競馬場で行われていた敗者復活からの勝ち上がりが発表される。この1時間後、日本はアンタッチャブルという化け物漫才師を知ることになる。