◆俳優としてのビジョンが明確
美香は、単に家庭を支える“女房”ではなく、家庭と外の社会との境界を守る接着剤のような存在だったように思う。夫を支える妻として、ふたりの子どもを持つ母としての顔が、社会全体に向けられる。と同時に社会に対するクッションにもなる。
井川が演じることで美香役にはそういう力強さが生まれた。『東京公園』でベビーカーを押す井川も母の姿に違いなかったが、それがよりわかりやすい社会性を持って視聴者の前にいる。
草彅剛主演の社会派ドラマ『罠の戦争』(フジテレビ・関西テレビ、2023年)でも家庭と社会との狭間で苦悩する妻&母役を繊細に演じていたのが記憶に新しい。役をこなすごとに俳優としてのビジョンが明確にバージョンアップされている。日本一どころか世界一の俳優だろうか。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu