◆公任がモテる秘密

「ほどもなく覚めぬる夢のうちなれどそのよに似たる花の色かな」

 これは藤原兼家(段田安則)の策略で、在位2年の短期政権に終わった花山天皇(本郷奏多)のことを歌った一首。まるで夢のような政権だったけれど……と、その治世と天皇に対する同情を込めている。

 人の心を叙情的に表現する公任がもし作詞家だったならこの令和でもきっとミリオンヒットを飛ばすに違いない。公任が編纂した『和漢朗詠集』はさながらベストヒット歌謡アルバムみたいな感じか。しかも公任、作詞ばかりか管弦の才にも優れた楽器奏者だった。

 当時は、漢詩(からうた)をリズムに合わせて歌う朗詠が、歌謡として流行っていた。この朗詠の音楽的感覚が公任の和歌に流れ、それが何よりモテる秘密。広く人々の琴線にふれる公任の歌に共感した多くの女性たちが、こぞって恋文をしたためたのだ。