◆『女子的生活』以来の風通しの良さ

 美紅とイヴは、すぐに意気投合する。帰り際にばったり再会し、イヴのバイト先のギャラリーカフェへ行く。メイク術に悩む美紅は、イヴに真っ赤なリップを塗ってもらう。イヴの恋愛対象は、あくまで女性だが、美紅からすると同性の友達感覚で気を許せる。

 自分の好きなものにとことん素直なイヴの生き方に感化され、るんるんで帰宅する美紅だったが、同居する交際相手・結城悠久(西垣匠)からは不評を買う。実はとんでもないモラハラ彼氏。美紅にはとことん自分の理想の姿であってほしいと望む彼は、知らない男性から塗ってもらった派手なリップの色をとことん毛嫌いする。

『恋い焦れ歌え』(2022年)の熊坂出監督によるホラー・テイストの演出が、悠久の歪んだ精神をかなり誇張しながら執拗に描く。意思決定のすべてを彼氏に委ねてきた美紅が、自分らしさに目覚め、女性として解放されていく物語自体はやや今さら感もある。

 でも導き手になるイヴの自由な魅力は、(あくまでビジュアル面で)トランスジェンダー女性の日常を活写した『女子的生活』(NHK総合、2018年)の志尊淳以来の可憐な風通しの良さを感じる。