灰川の本名は佐藤創。創と書いて「ハジメ」と読むそうです。地元の名家に産まれた灰川ことハジメは、その顔の半分を占めるアザを恥じた父親によって蔵に閉じ込められて育てられました。この父親は、田園風景の広がるのどかな村でひとりだけパリッとしたダブルのスーツを着る男でした。
ある日、ハジメは脱走を試みるもあえなく失敗。蔵に連れ戻されると、父親によって手のひらに「×」のマークの傷をつけられます。
そんなハジメの唯一の理解者が、犬山さんという流れ者でした。いつも山奥で絵を描いている変わり者の犬山さん。ハジメに、あの詩を教えてくれたのも彼でした。
しかし、自分の息子が勝手に外出して流れ者と仲良くしていることを、ダブルスーツ親父が許すわけはありません。ダブルスーツは犬山さんが人殺しであるというウワサを村中に流し、数日後には犬山さんの死体が川の滝つぼに浮くことになります。
唯一の理解者を失ったハジメは逆上し、犬山さんと過ごした山の岩肌に「降り積もれ孤独な死よ/灰の雪だけが知る/君がそこにいたことを」という詩を刻むと、父親の寝首をかいてめった刺しにしたのでした。
親殺しをしたハジメは、手のひらの「×」の傷に包丁を突き立てて線を書き足し、リッカのマークを刻みます。それは、犬山さんが教えてくれたマークでした。
「ハチの巣、亀の甲羅、トンボの羽、それに雪の結晶。これは、この世界でいちばん強い形だ。ハジメ、おまえはダメじゃない」
こうして、リッカのマークの“意味”が明らかになりました。