◆よもすがら……
そして、今回はなんと言っても定子の最期である。姫皇子を出産し、この世を去った定子。
印象的なのは、その前のききょう(ファーストサマーウイカ)とのシーンである。ききょうに支えられていたこと、そばにいてくれたことへの感謝を口にする定子。ききょうはその言葉に感激の表情を浮かべる。
振り返ると、心から定子のことを思っていたのはききょうだけかもしれない。もちろん、一条天皇も定子を愛しているけれど、自分の想いをぶつける割合のほうが大きい。もし、もっと違う方法がとれたなら、定子の負担も違ったかもしれない。
ききょうが、つわりが辛い定子に差し入れた「青ざし」。麦のお菓子だ。そんな菓子を敷いた紙に、定子がききょうへの歌が書く姿がなんとも美しいものであった。
定子が最期に詠んだ歌。
「よもすがら 契りしことを 忘れずば 恋ひむ涙の 色ぞゆかしき」
「一晩中約束したことをお忘れでないなら、死んだあとにあなたは泣いてくれるでしょう。その涙の色を知りたい」
もちろん、一条天皇のことを詠んだ歌なのだろうけれど、死にゆくとき、定子が思い浮かべたのは誰のことだったのだろう。きっと、ききょうのことも心にあったのでは、と思わずにはいられない。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ