◆何でもかんでもハラスメント認定される時代

 渚の“いないもの”という表現は善意とわかっていてもキツい言葉であり、100%落ち度がなかったかと言えばその判断は難しい。とはいえ、ひろ美は自身の妊活が上手くいかない状況が続く中、産休から復帰しシングルマザーとして子育てしながらも仕事に取り組む渚の姿に嫉妬心を覚えていた様子。渚を狙い撃ちしたようなハラスメント告発だったように思う。それでも、コンプライアンスに厳しい昨今、会社としても“勇気ある声”を無下にはできない。渚に謹慎処分を下すことは“落としどころ”だったのかもしれない。

 謹慎処分を下された場で渚は「杉山さんに伝えてください」と口にして、「私は成功者でもなんでもないし、今も戦ってて、負けてばっかで、誰かに助けを求めないと、働けないワーママです」「今回のことで妊活に後ろ向きにならないでほしいし、言葉足らずだけど、私あなたの味方だから」と目に涙を浮かべながらも決してひろ美を責めなかった。だからこそ、直接ひろ美に弁明できず、一方的に好きな仕事を奪われる姿は虚しさしかない。

 涙ぐむ渚を見て、何でもかんでもハラスメントと括ってしまう風潮、さらには加害者の言い分が蔑ろにされやすい現状に対する違和感も覚えざるを得ない。そして何より、ハラスメント被害者の登場人物を少しでも批判が向くように表現すると、正義感の強い人から「被害者の気持ちを無視するのか?」といった声が簡単に寄せられる現代社会、あえてハラスメント被害者に疑問を向ける展開にした制作陣のガッツを感じずにはいられなかった。