◆「私が悪かったんだ」
昨今は「包括的性教育」が広く知られるようになった。「身体や生殖の仕組みだけでなく、人間関係や性の多様性、ジェンダー平等、幸福など幅広いテーマを含む教育」のことで、特に「バウンダリー=人との境界線」や「同意」が重視される。
その男性教諭はバウンダリーを無視し、そこにいる人たちの同意を取ることもなく、性の話をはじめた。それも、適切ではない言葉で。ミユキさんは「いないこと」にされたも同然だし、イヤな気持ちになった生徒がいてもおかしくない。これはセクシュアルハラスメントだ、とミユキさんは認識した。
ストレスからの突発性難聴を発症したミユキさんは、このことを学校に訴えた。
「管理職と話をしたときに『だって、それは性教育だったんでしょう?』といわれました。聞いていると、私が悪かったんだという気持ちになってくるんですよね。現場で録音もしなかった私はバカだったな、とか」
ミユキさんの行動は、男子校が長いあいだ保ってきた文化にそぐわないものだったのだろう。同質性の高い集団であるがゆえの不文律があるというのは、それまでにも感じてきたことだった。
ミユキさんは独身で、自分の人生に子どもはいらないと思ってきた。同居しているパートナーがいるが、いまのところ婚姻届を出す予定はない。男子校に赴任したときに校長にそう伝えたところ、あからさまに驚かれ、「保護者になんと説明すればいいのか……」といわれた