◆信じた道をひた走る、そんな人間でありたい
作品に圧倒的なリアリティをもたらしているのがリュ・ジョンヨルの“見えない”演技。無表情でありながら視力の明暗が一目で伝わるその演技力は圧巻。
一方、強い印象を残すのはユ・ヘジン演じる国王。自業自得ながらどんどん人を信じられなくなり、ひとりぼっちになっていくその様はただただ哀れで、権力にとり憑かれてしまった者の悲哀と狂気を感じさせられた。
卑しい者と己を蔑(さげず)み、全てを見ないふりして生きてきたギョンス。力なき者が自分の命や家族の人生を思って真実から目を背け、口を閉ざしてしまったとしても、誰が責めることなどできようか。
でも、そんな自分をどうしても許せなくて、愚かだと分かっていても、そうすべきだと感じた道を行くために涙目になって引き返す姿にぐっと胸を掴まれる。
市民にできることなど、権力を前にしたらとてもちっぽけ。それでも怯(おび)えながら、泣きべそをかきながら信じた道をひた走る、そんな人間でありたいと思えた。
『梟-フクロウ-』
監督:アン・テジン 出演:リュ・ジュンヨル、ユ・ヘジン 配給:ショウゲート 製作:2022年/韓国/118分 日本語字幕:根本理恵/G
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<文/宇垣美里>
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。