◆ひとりの女性のために綴られた言葉たち

やはり、今回は何と言っても『枕草子』の始まりだろう。

NHK『光る君へ』第21回
出家を決意した定子(高畑充希)。その後、二条第で火事が起き、定子は伯父である高階明順の屋敷に身を寄せていた。そんな定子に仕えるようになったききょう(ファーストサマーウイカ)。彼女が頭を悩ませているのは定子が生きる気力を失っていることだった。一条天皇(塩野瑛久)の子を懐妊しているが、それでも定子の目は虚ろだ。

どうにか定子を励ましたいききょうにまひろ(吉高由里子)は定子のために何か書いてみては、と勧める。

ききょうは書いては定子のもとへと届ける。

そして、それを手に取り読み始める定子。

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる」

朗読する高畑充希の声がなんとも美しい。透明感がある声が、スッと心に溶けていく。

「春はあけぼの」「夏は夜」「秋は夕暮」「冬はつとめて」……

多くの日本人が学生時代に暗記させられた『枕草子』。なんのために覚えねばならないのか、と思った人もいるだろう。もはや、このシーンに覚えたといっても過言ではないかもしれない。自然と、「夏は夜」のあとも定子が読む声が聞こえてくるような気がしてしまう。

ただひとりのために書かれたものだとしたら……。ききょうにとって「光る君」は定子なのだろう。改めて、その尊さが染みわたる。