◆「豆きちが安心して旅立てるように……」

 中村さんはここでこんなふうに思ったと言います。

「人間も動物もいつか必ず死ぬ。また、病気もすれば怪我もする。治療して治るものもあれば治せないものもある。でも、それらを前に人間はその先を選択できるけど、犬には選択することができない。

 生まれたときから『人間社会の犠牲』としての犬生を強いられたものの、やっと自由になれると思ったところで余命宣告。これからの豆きちには、できるだけ痛みをとってあげたいし、美味しいものを食べさせてあげたい。できれば、広い草土の上を自由に走らせてあげたい。あの繁殖場の劣悪な環境ではなく、清潔で柔らかなベッドの上で、豆きちが安心して旅立てるように……」