◆泣き演技の天才は、“日常の描写”でも凄かった

もともと演技力には定評のある杉咲は、特に近年難しい役どころを務めています。ドラマ『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』では、ヤンキー青年と恋をする強度の弱視を抱えた女子高生。映画『市子』では、過酷な家庭環境で育ち、無戸籍で生きることになった壮絶な半生を背負う女性。そして今年公開された映画『52ヘルツのクジラたち』では、実母からネグレクトを受け、21歳で義父の介護をひとりで担う主人公。どの役も、期待を大きく上回る熱演で心を揺さぶられました。

これまでの作品から、彼女が“泣き演技”の天才であることは明確です。本作でも美しい涙で感動を呼んでいます。ですが筆者は『アンメット』で、杉咲の凄さを“日常の描写”にこそ感じました。第1話にゲスト出演した風間俊介がX(旧ツイッター)で「なんで、あんなに美味しそうに食べれるのだろうか。」と絶賛したことも話題になりましたが、まさしく! 食事シーンの秀逸さはもちろんですが、ミヤビが自宅で過ごすシーンにおいても杉咲の細やかな日常表現が光ります。朝目覚ましが鳴って起きる場面ひとつとっても、覚醒した瞬間、目をつぶったまま音を探す仕草、目覚ましに貼られた付箋に戸惑う様子などを、自然な流れで、物凄くリアルに表現しているのです。

ミヤビが積み重ねてきた日常と彼女の人物像が、杉咲の細やかな表情、仕草から浮き彫りになっていく。圧倒的でありながら、観るものを自然と物語の世界へ誘っていく彼女は間違いなく今クールNo.1! 6月21日には主演を務める映画『朽ちないサクラ』が公開。親友の変死事件を独自に調査するなかで、警察内部の闇に迫る県警の職員を演じます。これからも杉崎は、私たちの期待を裏切り邁進し続けてくれることでしょう。

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主演を務める女優さんは、作品の出来を決定づけることがあります。今回ご紹介した3人は間違いなくドラマの質を押し上げる名演で、私たちを魅了してくれました。ますますの活躍が楽しみでなりません。

<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>

【鈴木まこと】

tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201