◆“役を生きている”俳優たちと、丁寧な人間描写

観た人たちが口を揃えて“傑作”という本作の魅力は、繊細な人間描写にあると思います。

ミヤビの記憶障害は、過去2年間の記憶が抜け落ちた上で、今日のことを明日にはすべて忘れてしまうというもの。誰に会って何を話し、何に喜び、悲しんだのかを毎日リセットされるのは、想像を絶する状態です。しかし物語のなかで、私たちは気づかされます。記憶がなかったとしても、積み重ねてきた努力や関係性は失われないし、強い感情は心が覚えて繋がっていくということに。それを教えてくれるのが、登場人物たちなのです。

ミヤビと、同僚の脳外科医であり婚約者を名乗る三瓶(若葉竜也)の両名はもちろんですが、ミヤビの主治医・大迫教授(井浦新)、同僚の救命医・星前(千葉雄大)、看護師長・津幡(吉瀬美智子)、かつてミヤビに好意をもっていた脳外科医・綾野(岡山天音)といった、彼女を取り巻くキャラクターの人柄や関係性も丁寧に描かれました。一人ひとりの解像度が高く、役者たちが皆、まさに“役を生きている”と感じさせるのです。ミヤビだけでなく、それぞれに抱えているものがある。その不完全さを、愛おしく映し出しています。