宿泊客が使う自炊場

古くからの湯治旅館でしばしば見かけるのが、共同の自炊場。大沢温泉では泊まり客や長逗留する人のために窓のある明るい自炊場を備えます。電子レンジやトースター、鍋類や食器類が自由に利用できました。

▲窓のある明るい自炊場

▲レトロなガスコンロ

1回10円で7分から8分使える課金式のガスコンロ。説明には「拾円(じゅうえん)」の文字があるので、ずいぶんな古さと思われます。

食堂では朝夕の食事も可能

自炊をしない方のために食事処「やはぎ」があります。夕食は予約なしでも利用できて、定食や麺類などメニューも豊富。生ビールや日本酒などのアルコールもありました。今回は朝夕ともに食事処でいただきました。

▲お食事処「やはぎ」

夕食には「ひっつみ定食」をいただきました。岩手県の郷土料理 “ひっつみ汁” が大きなお椀によそわれて、ご飯替わりのいなり寿司と小鉢、お新香、デザートのムースがついた定食です。この日の小鉢は蓮根のそぼろ和えで、いなり寿司も大きく、食べ応えがありました。

▲岩手の郷土料理「ひっつみ定食」 ¥1,200

“ひっつみ” とはちぎるの方言で、水で練った小麦粉をちぎって鍋に入れた汁物です。こちらのひっつみは珍しく、丸くて薄く雑穀入りで、もちっとした食べ応え。醤油ベースに塩味を加えたスープで、大根など野菜もたっぷり入っています。雑穀が入っているのでプチプチした食感も楽しめます。田舎料理といった味つけで、とても美味しくいただきました。

▲大きなお椀の「ひっつみ汁」

▲客室が並ぶ廊下には、個々の部屋から障子を通して柔らかな明かりが漏れ、温かみを感じる光景でした

朝食もお食事処でいただきました

お食事処「やはぎ」の朝食は、チェックインのときに予約します。営業時間は7時30から9時までで、定食を用意します。この日は鮭の塩焼きやきんぴらごぼうの小鉢、日替わりの漬物は大根の甘酢漬け。お味噌汁には麩海苔、ネギ、麩が入っていました。ご飯は地元花巻産のひとめぼれで、お代わり無料です。田舎の古い旅館でいただく、素朴な味の朝食です。

▲朝定食 ¥800

▲こんなガラス戸がある宿も、出会う機会が少なくなりました

観光旅館とは宿泊スタイルが大きく違う【大沢温泉 自炊部 湯治屋】。江戸後期築の建物ももちろんですが、長逗留する湯治客のために考えられた独特の仕組みが今も残る温泉です。今ではとても少なくなった、日本ならではの湯治文化をこの宿で体験してみてくださいね。<text&photo:湯川カオル子 予約・問:大沢温泉 自炊部 湯治屋 https://www.oosawaonsen.com/touji/>

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