岩手県花巻市の山あいにある大沢温泉と言えば、温泉ファンの間では、昔ながらの湯治文化が残る【大沢温泉 自炊部 湯治屋】が知られます。春から秋の農作業で疲弊した身体を癒すため、数日から数週間泊まり込むこともあり、宿泊費を安く抑え、最低限のサービスで自炊しながら生活する。そんな風情が今も残る、ひなびた温泉旅館です。

築200年を超える湯治の宿

大沢温泉には山水閣、湯治屋、菊水館(現在はギャラリー「茅(ちがや)」として開館中)の3つの棟があり、リーズナブルな湯治屋と、サービスの行き届いた山水閣から成っています。今回は昔ながらの湯治滞在ができる湯治屋、別名自炊部(有料のお食事処もあります)に泊まりました。

アクセスは新幹線が停車する「新花巻駅」と東北本線の「花巻駅」から花巻南温泉組合の無料シャトルバス(事前予約制)を利用できます。

▲湯治屋の玄関棟は江戸時代後期、200年以上前の建物です

大沢温泉の開湯は古く、延歴年間(782年から806年)と伝わるため1,200年以上の歴史ある温泉地です。慶応3年(1867)年には陸奥盛岡藩14代藩主の南部利綱が湯治したほか、宮澤賢治や高村光太郎など数々の著名人が訪れた温泉地としても知られます。

▲宿泊の手続きは、昔ながらの「帳場」で行います

食事つきプランを利用する方は、チェックイン時に予約券をいただきます。朝食を希望する場合はこの時に予約します。現地払いの場合、支払いはチェックアウト時に行い、クレジットカードのほか交通系ICやQRなども使えます。

▲館内の廊下は風情があってノスタルジック

チェックインが済むと、自分の靴を持って部屋へ向かいます。靴は部屋の近くにある靴箱に置きます。

古くからの “湯治文化” が残る宿

湯治屋の客室は6畳と8畳が中心で、素泊まりが基本です(食事は別料金)。湯治のために長逗留するお客さん向けに料金が設定されていて、部屋のみ予約した場合は室料が安い分、布団や浴衣、タオル、こたつほか、歯ブラシなどのアメニティは全て別料金です。その分、布団やこたつなど必要な物や備品は全て持ち込むことが可能。逆に考えれば、持参すれば安く泊まれる仕組みです。長期間宿泊する湯治客のために考案された合理的な仕組みで、今ではごくわずかになりましたが、東北地方にはこうした湯治宿が古くからありました。

▲今回泊まった客室は8畳の角部屋

部屋は角部屋で、広縁の窓からは豊沢川と曲り橋が眺めらます。また写真右手の窓は露天風呂に向いていて、夜は女性専用時間があるため、暗くなってからは障子を開けないようにします。テーブルはこたつ(暖かく使う場合は有料でコードを借ります)を使い、プランについている布団一式は客室の隅に畳まれていました。洗面と男女別のトイレは共同利用です。

▲レトロな茶だんすと薄型テレビが置かれます

広縁には冷蔵庫が置かれ、自炊用の食材が入れられるに中型サイズのワンドアタイプでした。

▲部屋からの眺望

客室の位置によって眺望は異なりますが、この客室からは豊沢川にかかる名物の「曲り橋」がよく見えました。橋は宮沢賢治も渡ったそうです。

▲部屋の内鍵。今では目にすることがなくなったネジ式の鍵が襖についています

客室(若葉荘をのぞく)は外鍵がなく、内側から回して閉める「捻子(ねじ)締まり鍵」のみ。そのためお風呂や食事など部屋を離れるときは施錠できないので、貴重品が気になる方は帳場(フロント)に預けます。

▲浴衣は有料でレンタルです

浴衣つきのプランもありますが、今回宿泊したプランにはないので220円で借りました。