◆「導かれるような」「冷静すぎる」役が怖い

『蛇の道』
 物語は、8歳の愛娘を何者かに殺された中年男性の主人公が、パリで働く心療内科医の協力を得ながら、事件に絡む元財団の関係者たちを拉致監禁していくというインモラルなもの。

 その心療内科医役に、黒沢清監督たっての希望でキャスティングされたのが柴咲コウ。「彼女はあの目つきがいいですよね。あの目で見つめられただけで、男性はあらぬ方向へと誘導されてしまう気がする」と黒沢清監督は語っており、なるほど劇中で復讐のために自らの意思で犯罪に手を染めているはずの主人公が、表向きは協力者にすぎない柴咲コウに「導かれている」印象を覚える。

 例えば、ターゲットをトランクに入れたまま停めていた車のそばに警察がいるのを見て、主人公は「もう終わりだ」と絶望するのだが、すぐさま柴咲コウは冷静に警察と話し合い対処する。その「まったく動じていない」様は、もはや人間らしい恐怖心や葛藤がないようにすら思える、それこそが怖いキャラクターを柴咲コウは体現していたのだ。