◆繰り返しの中で織り上がる名演

『虎に翼』
『虎に翼』© NHK
 ずいぶん芸達者な人である。『虎に翼』で主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)の家で高等試験を受けては失敗する書生・佐田優三を演じる仲野太賀を見ていると、作品内で描かれる戦前の情勢に明るくない視聴者でもどんどん視界が開けていく。

 かと言って変に説明的な案内人にならないところがなおいい。その上で、仲野は、視聴者に対してキャラクターの魅力的な内面を開陳する塩梅を心得ている。具体的には、緊張とゆるみの演技によって。

 例えば、第4週第20回。父・猪爪直言(岡部たかし)の逮捕を受けて打ちひしがれる寅子を優三が励まそうとする場面。不意打ちの腹痛で吹き出しそうになる。でも我慢。その繰り返しの中で織り上がる仲野の演技は、緊張とゆるみに裏打ちされた名演と言って差し支えないだろう。