灯さんを死なせてしまった自責の念から、償いとしてハルカンの命を救った上野さんの死は、一般的に見て美談です。でも、災害の現場ではそれを美談として扱ってはいけない、人命を救助する仕事は、絶対に自分が死んではいけないという価値観に、私たちは2カ月前の雪崩災害のエピソードで胸を打たれていますので、なんやねんという気持ちになるわけです。
東日本大震災のとき、甚大な被害にあった岩手県石巻市で災害医療のリーダーを務めた石井正さんというお医者さんがいました。当時、石井さんは石巻を救ったヒーローとして盛んにマスコミに取り上げられましたが、本人はただ淡々と「たまたまそういう立場にいただけ」「外科医ならみんな同じことをやったはず」と言い続けていたんです。それがすごく印象に残っていて、『ブルーモーメント』が語った哲学ともリンクしていた。
私個人は『ブルーモーメント』を災害現場におけるスペクタクルを楽しむものとして見ていますし、ハルカンは天才リーダーとされていますので、現場にセンチメンタリズムを持ち込まれると「うるせーな」と思ってしまうんです。悲しいのはわかるけど、よそでやれよと。
いや、みんな別に仕事はちゃんとしてるんですけどね。ただ仕事してるだけじゃドラマにならないのもわかるし、普段は「ドラマは個人を掘り下げろ」と思ってるんですけど、今作に限ってはどうしてもセンチメンタルが邪魔に感じてしまう。それだけ、救助シーンの緊迫感の演出が優れているということだと思うんですけど。
(文=どらまっ子AKIちゃん)