■本当に最低なことは最低に描こう

 ここの、木下の海斗くんへの好意を利用して手籠めにし、口を封じるというシーン。このドラマの中でも屈指の“海斗クズエピソード”なんですよね。人として踏み越えてはいけない一線を越えました、というシーンなわけです。

 だから、あんなライトでスマートなバードキスでは、その葛藤が伝わってこないわけですよ。「これをやったら最低だ」「でも、立場上やるべきだ」という引き裂かれる思いがあって、それを振り切った末のキスなわけだから、ロマンチックなわけないんだから、もっとむちゃくちゃにいかなきゃいけない。

 ここで求められるのはラブシーンではなく、アクションシーンなわけです。人物の所作で感情を表現するべき場面。例えば積年の恨みを持った相手をいよいよ殴ろうというシーンで、人物がふにゃふにゃの猫パンチを放ったら「恨み」を表現できない。それと同じように、ここでは振り切ったキスを見せなければ「葛藤の末」という感情を表現できないわけです。

 まあ、赤楚くんと見上愛という組み合わせで、それはできないという何かの都合なのでしょう。ドラマ前半で笹野高史が余貴美子の口にグリグリと春巻きを押し付けたシーンのような、そういうグロいキス、グロい感情を見せるべき場面だったわけです。