◆笑ってごまかしてきた、あなたたち世代のせいで私たちが働きづらい

だが、郁子は「どうしていいかわからないから女の色気を売ろうとした」のだ。スキルも覚悟もなかった。それをほのかは糾弾する。

「どうしていいかわからないから笑ってごまかしたんですよね。そうやってあなたたちが笑ってごまかしてきた1分1秒が積もり積もって、女は笑っていればいいという悪しき文化ができたことに気づいてますか。あなたたち世代のせいで、私たちがどんなに働きづらいか」

ほのかの言い分もよくわかる。がんばってきたつもりだったのに、実は単に我慢してごまかしてきた女たちのツケを、今の若い女性たちは払わされているのかもしれない。ほのかは日頃の鬱憤(うっぷん)をすべて郁子にぶつける。

郁子は「私たち世代のがんばりが足りなかった」と謝罪する。現実としては、「がんばりが足りなかった」と片づける問題ではないだろう。社会的な女性の地位が不思議なほど上がらないこの国の構造が諸悪の根源ともいえるが、俯瞰(ふかん)してみれば社会の変化と人間の意識は常にバランスよく進化していくわけでもない。

あれだけ郁子を糾弾していたほのかだが、そのとき惚れた男から連絡が来て狂喜乱舞する。男の連絡を待ち、セカンドに甘んじているほのかの矛盾が浮き彫りになる。

そう、結局、人間は社会で生きる自分とプライベートな自分との間に大きな齟齬(そご)や矛盾のある生き物なのだ。