◆見てよかったと思わせる多部未華子

木曜劇場『いちばんすきな花』10話より ©フジテレビ
 実際のところ、それ以上の意味がある。これを説明したいが故に、筆者は冒頭で小津映画に言及しておいたのだ。俳優の演技について、小津監督は以下のように述べている。

「大事なのは性格だな。性格をつかむことだと思うんだ。性格をつかんだ上で、感情を出すんでなければダメだと思う」(「性格と表情」から引用)

 何と含蓄ある演技論だろう。これは即、多部未華子の演技に当てはまり、彼女の演技についてすべてを説明してくれる。そう、あのリビングの横顔、そして鼓太郎と夜道を歩く直後のツーショットで多部が見せた表情は、ゆくえの性格どころか、遺伝子情報までが透けて見えるようだったのだ。

 ゆくえの人間性から人生の本質的なものを学び、同時に多部未華子というひとりの俳優のトリセツを得たような、趣きある後味。何ともへんてこなドラマだったことは確かだが、最終話まで見てよかった。そう思わせてくれた多部に大きな拍手を(!)。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu