◆社会としての家庭も描きたい

『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』
――達郎から最初に勧誘される小西を演じる小倉史也さんとのトリオはどうでしたか?

古厩:3人目の活かし方は難しいものです。それは日本の映画界では、ある役柄に対する役者の席が一つしかないことが多いからでもあります。一人のところに必ず同じような役がくる。例えば、風采が上がらない感じなら、宇野祥平さんみたいに。

アメリカ映画ならもっと幅広いものですが、でも、今回の小西的な役回りの席はあまりないので、器用な小倉さんならしばらく独占できると思います(笑)。彼は、『20世紀少年』の子役やCM作品などで大活躍しています。

――さらに思うのは、家族の描き方です。山﨑賢人さんを筆頭にした、青春キラキラ映画は2010年代に黄金期を迎えました。ほとんどの作品では、ティーンの関係性に焦点を置くため、日常の背景となる家族は不在として描くことが多いです。でも本作では、翔太の父親である斉藤陽一郎さんの登場など、家族との関係性も含めて青春の群像が描かれるのが興味深いです。

古厩:達郎と翔太の家庭環境は、実話をベースにしています。元ネタのモデル本人たちに話を聞くと、実際にお父さんに対してわだかまりや静かな怒りがあったり、家庭に問題があることに気づき、「社会としての家庭」も描きたいと思いました。

先ほど話題になったヒップホップ映画で描かれる家庭環境は、ほんとうに劣悪なものですよね。主人公たちは、出口がない場所でもがき、ヒップホップやスケボーに心血を注ぐ。それと同じように、達郎と翔太もeスポーツに挑戦するんです。

――伝説のヒップホップグループ「N.W.A」を描いた『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)の舞台であるコンプトンでは、ギャングになるかラッパーになるかでしたね。そうしたせめぎ合いの中にストリートな感覚が根付いていましたが、今の日本で考えた時、ストリートな感覚としてeスポーツに向かう必然性はどんなところに?

古厩:仰る通り、コンプトンには、紛れもないストリートがあります。じゃあ日本にもストリートはあるのか。例えば、川崎のセメント通りはどうかと考えるけれど、少し意味合いが違う気もする。

確かに川崎出身のラッパーはたくさんいます。でもほんとうにギャングがいるようなコミュニティではなく、各々が孤独なタコツボ的なものです。日本にはストリートがないんですよね。それなら逆にリアルではないオンラインならどうか。eスポーツのバーチャル空間でストリート的に繋がるなら、むしろこの先、ストリートな感覚が根付くのかもしれません。