◆自主練で呟いた「心の叫び」がセリフに

古厩智之監督
――奥平さんとの掛け合いはどうでしたか?

古厩:キャラクターや演技の方向性は全然違いますが、俳優同士の年齢は近いですし、キャッチボールをしていく中でお互いにいい影響があったと思います。

――若手俳優に対していつもどのように演技の空間を作るんですか?

古厩:僕のようなおじさんが作ってもしょうがないので、おおまかな動きだけ段取りとして決めてあげて、あとはお任せします(笑)。おおまかな指示のほうが、彼らが自由に演じる幅が増えるからです。それを見て、「あ、いいな」と思った瞬間を拾っていきます。あまりキツくきゅっと縛っても監督が得をすることはありません。

――オンライン上で達郎から「ロケットリーグ」の操作を指南された翔太が、心からゲームを楽しんで、「取れるだけで嬉しい」ともらす一言。初心者の彼がコタツに入ってゲーム画面に集中するあの場面は、奥平さんが自由に演じているなと感じましたが。

古厩:あのセリフはですね……。『武士道シックスティーン』(2010年)の剣道にしろ、『のぼる小寺さん』(2020年)のボルダリングにしろ、監督としていつも真っ先に挑戦してみるんです。でもだいたい僕が一番最初に脱落する(笑)。今回はeスポーツですが、ロケットリーグは操作が難しい。家で何度も自主練して、やっとボールを取れたとき、「取れるだけで嬉しい」と呟くと、妻が「そのセリフいいね」と(笑)。

それでメモをしてセリフにしました。なので僕の心の叫び。最初ボールが取れるだけで、ほんとうに嬉しいんですよ。

――さすが、脚本家でもある唯野未歩子(達郎の母役)さんとの共同作業があったわけですね! そんな背景のセリフを奥平さんが発すると、それこそ、あんなにもナチュラルになるんですね。しかもあの場面は、ショットのサイズがやや引き気味で画としても一番好きな場面でした。

古厩:はい、ああいう瞬間はカメラを引きたくなるものですね。